無形資産の取扱い-日本基準とIFRS
①無形資産の識別要件
PPAにおける無形資産の識別において、厳密にはIFRSと日本基準の識別要件は微妙に異なるものとなっています。
日本基準では、分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取扱うとされており、「分離して譲渡可能かどうか」が実質的な判断基準となります。
一方、IFRSでは、資産が分離可能かどうかを問わず、契約または法的権利から生じている場合は識別可能とされ(契約・法律規準)、契約・法律規準を満たさない場合でも、分離可能であれば識別可能とされます(分離可能性規準)。
また、日本基準においては、分離して譲渡可能な無形資産とは、当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならないとし、企業結合の目的の1つが、特定の無形資産の受入れにあり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、当該無形資産については分離して譲渡可能なものとして取扱う、とされています。
日本基準の認識基準は少し分かりづらいところもありますが、意訳すると日本基準もIFRSも、法律や契約で保護されるものであるかどうか、または、分離して譲渡可能かどうか、ということが実質的な判断基準となります。
商標や特許は、登録されていれば法的に保護されているので、無形資産としての認識基準を満たしていることとなります。一方、商標登録をされていないが広く認知されているブランドや、特許として登録はされていないが特殊で価値がある技術については、法的に保護はされないものの分離して譲渡することが可能(簡単に言うと、売却することが出来る)であることから、日本基準においてもIFRS基準においても無形資産としての認識基準を満たしていると考えられます。
無形資産の認識要件:日本基準
- 分離して譲渡可能な無形資産(企業結合会計基準第29項)
- 受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う。
- 法律上の権利(企業結合会計基準適用指針第10号58項)
- 企業結合会計基準第29項にいう「法律上の権利」とは、特定の法律に基づく知的財産権(知的所有権)等の権利をいう。特定の法律に基づく知的財産権(知的所有権)等の権利には、産業財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)、著作権、半導体集積回路配置、商号、営業上の機密事項、植物の新品種等が含まれる。
- 分離して譲渡可能な無形資産(企業結合会計基準適用指針第10号59項、59-2項)
- 企業結合会計基準第29項にいう「分離して譲渡可能な無形資産」とは、受け入れた資産を譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、企業又は事業と独立して売買可能なものをいい、そのためには、当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならない。
- 特定の無形資産に着目して企業結合が行われた場合など、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、当該無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱う。
- 企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れである場合(企業結合会計基準適用指針第10号367-2項)
- 企業結合の目的の1つが、特定の無形資産の受入れにあり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、取得企業は、利用可能な独自の情報や前提等を基礎に一定の見積方法を利用し、あるいは外部の専門家も関与するなどして、通常、取締役会その他の会社の意思決定機関において、当該無形資産の評価額に関する多面的かつ合理的な検討を行い、それに基づいて企業結合が行われたと考えられる。このような場合には、当該無形資産については、識別して資産計上することが適当と考えられ、分離して譲渡可能なものとして取り扱うこととした。
無形資産の認識要件:IFRS
Identifiability (IAS38.12)
- An asset is identifiable if it either:
-
- is separable, ie is capable of being separated or divided from the entity and sold, transferred, licensed, rented or exchanged, either individually or together with a related contract, identifiable asset or liability, regardless of whether the entity intends to do so; or
- arises from contractual or other legal rights, regardless of whether those rights are transferable or separable from the entity or from other rights and obligations.
- Intangible assets (IFRS3. B31-B33)
- B31 The acquirer shall recognise, separately from goodwill, the identifiable intangible assets acquired in a business combination. An intangible asset is identifiable if it meets either the separability criterion or the contractual-legal criterion.
- B32 An intangible asset that meets the contractual-legal criterion is identifiable even if the asset is not transferable or separable from the acquiree or from other rights and obligations. (以下略)
- B33 The separability criterion means that an acquired intangible asset is capable of being separated or divided from the acquiree and sold, transferred, licensed, rented or exchanged, either individually or together with a related contract, identifiable asset or liability. (以下略)
②無形資産とのれんの経済的耐用年数
無形資産は経済的耐用年数を決定することが困難な場合も多く、IFRSでは、耐用年数が確定できない無形資産については非償却が認められており、実質的に半永久的に法的保護期間が継続される商標権等が該当する場合があります。
一方、日本基準においては、耐用年数を確定できない無形資産という考え方がなく、耐用年数の設定が必須との解釈が多数を占めており、何らかの論拠で経済的耐用年数を設定することが一般的です。
これは、のれんの償却の考え方にもリンクすると考えられており、のれんを非償却として毎期の減損テストにおいてその効果を測定するIFRSと、のれんを20年以内で償却する日本の会計基準との考え方の相違が、無形資産の耐用年数の考え方にも影響を及ぼしているものと考えられます。
項目 | 日本基準 | IFRS(USGAAP) |
---|---|---|
のれん | 20年以内で償却 | 非償却 |
耐用年数が確定できない無形資産 | 非償却は認められない | 非償却 |