無形資産の評価(測定)-③WACC・IRR・WARA
(1) WACC (Weighted Average Cost of Capital)
WACCは一般的に企業価値評価に用いられる割引率であり、企業全体の投下資本に対する資本の調達コストとして、株主資本コストと負債コストの加重平均で表されます。
言い換えれば、WACCとは、資本提供者の要求に応えるために、企業が投下資本を活用して生み出さなければならない最低限の収益率です。無形資産の評価においては、資産毎の割引率を設定するためのベンチマークとしてWACCが利用されます。
(2) IRR (Internal Rate of Return)
IRRとは、NPV(Net Present Value, NPV)がゼロとなる割引率です。NPVは、将来キャッシュ・フローの現在価値の合計額から初期投資額を控除したものとなります。そのため、IRRは投資家が投資によって必要最低限獲得したいと考える利回りであり、WACCを投資家側から見たものと言えます。通常、IRRはWACCに近似した値になります。
無形資産評価において、IRRは評価に使用されるWACCが合理的な水準といえるかどうかを検証するために用いられます。PPAにおける無形資産評価の公正価値を測定するには一般的な市場参加者が想定すると考えられるWACCを設定する必要があります。このため、一般的な市場参加者の代表である買い手企業が求めるIRRを用いてWACCを検証することとなります。
(3) WARA (Weighted Average Return on Assets)
WARA(加重平均資産収益率)は各資産の収益率を加重平均した値です。一般的には、WACCやIRRと異なり一定の算式に基づき直接的に求めることは出来ず、各資産の想定リスクに応じた収益率を設定した結果として求められます。
WARAは企業が投下資本を活用して生み出さなければならない最低限の収益率であり、資本の調達コストであるWACCと、理論上は一致することとなります。
WARA計算例
残高(百万円) | 構成比① | 期待収益② | 加重平均 ③=①×② | |
---|---|---|---|---|
運転資本 | 500 | 6.3% | 3.0% | 0.2% |
有形固定資産 | 3,000 | 37.5% | 5.0% | 1.9% |
商標権 | 1,500 | 18.8% | 12.0% | 2.3% |
顧客関連資産 | 1,000 | 12.5% | 14.0% | 1.8% |
のれん | 2,000 | 25.0% | 15.0% | 3.8% |
合計 | 8,000 | 100.0% | 9.8% |
(4) WACC、IRR、WARAの関係
以上より、WACC≒WARA≒IRRの関係が成立し、これを前提として無形資産の測定を進めていくこととなります。